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2024年3月8日

#Report

女性たちが活き活きと暮らす環境づくりを目指して【データから紐解く課題と可能性】

 わたしたちが事業を様々な地域で推進していく中で、地域に課題感を抱きながら挑戦する機会を探していたり、実際にアクションを起こしている女性たちに多く出会ってきました。しかしながら、日々の仕事や家事に追われてしまい、余力がなく新しいことにチャレンジすることを避けてしまったり、変化を恐れてしまう女性、地域で働きたいという想いがあるけども見合った職がなく地域を出ていく女性など、現状を諦めてしまっている多くの女性たちを見てきました。「諦めてしまっているけどもこうなったらいいな」という女性たちのワガママに触れながら、わたしたちは個人の能力や想いだけでなく社会構造として課題を捉える必要があると考えています。今回のコラムでは、女性たちが活き活きと暮らす環境づくりを推進していくために、まず彼女たちが現状置かれている課題をデータから紐解いていきたいと思います。

日本の女性たちが置かれている状況

「女性活躍推進」ーこの言葉は近年日本の政府や多くの企業が掲げ、推進してきた施策の一つです。実際、日本政府や企業においても女性管理職や議員数を増やしていくなど女性活躍推進を促していますが、2023年6月に世界経済フォーラム(WEF)が発表した「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)(*1)によると、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、前年(146カ国中116位)から9ランクダウン。順位は2006年の公表開始以来最低ランクであり、分野別にみると、政治が世界最低クラスの138位で、男女格差が埋まっていないことが改めて示されました。

 また、イギリスの経済誌「エコノミスト」は、2023年3月にOECD(経済協力開発機構)の加盟国のうち主要な29か国の「女性の働きやすさ」を評価したランキングを発表したところ、日本は最下位から2番目でした。(図表1)この結果について、エコノミストは「いまだに女性が家族かキャリアのどちらかを選ばなければならない国が下位を占めた」と述べています。

図表1 OECD 女性が働きやすい国ランキング(*2)

 日本のデータを見てみると、日本の25~44歳の女性の就業率は78.6%まで上昇しているものの(図表2)、実際には共働きの世帯を見てみると「妻がフルタイムの共働き世帯」は増えておらず、増えたのは「妻がパートの共働き世帯」だということがわかります。(図表3)なぜ女性は仕事にフルコミットする環境を選択できないのでしょうか。

図表2 女性就業率の推移(*3)
図表3 共働き世帯数の推移(*3)

多くの女性が家事・育児と仕事の両立で悩み、制約がある人材に
ならざるをえない環境

 女性の就業率を年代別で見てみると、20代後半は83.6%でしたが、30代後半に入ると75.8%に下がっていきます。特に30代女性の正規雇用比率をみてみると、20代後半の58.7%をピークに低下しており(図表4)、これは結婚や妊娠・出産などのライフステージの変化によるものと考えられます。

図表4 女性の就業率と正規雇用比率(*3)

 厚生労働省が企業の職員の実態調査を行ったところ、「妊娠・出産で離職する女性はほとんどいない」と回答した正社員は5割以上に上りましたが、有期雇用労働者は約2割に留まっています。(*4) 就労継続意欲はあったものの、仕事を辞めた理由として一番多いのは、「仕事と育児の両立の難しさ」(正社員41.5%、非正社員25.8%)でした。「仕事と育児の両立の難しさで辞めた」と回答した人の詳細な理由を見ると、女性・正社員は「自分の気力・体力がもたなそうだった」(59.3%)、女性・非正社員は「勤務先に育児との両立を支援する雰囲気がなかった」自分の気力・体力がもたなそうだった(もたなかった)」(41.7%)が最も高くなっています。(図表5)

図表5 末子妊娠判明時の仕事を辞めた理由(*4)

女性たちの働く環境

 多くの企業で育児休業制度や短時間勤務制度など女性を含めた働き方の改革を進めていますが、制約がある女性にとって課題が全て解決されているわけではないようです。働き方改革を進める上で、特に課題として認識されているのは「就業時間が固定化されており、柔軟な時間設定ができないこと」、「有給休暇を取得しにくいこと」、「労働時間が長いこと」の3つです。

 企業は一つの解決策である短時間勤務制度を活用して、労働時間の課題に対応しており、 「ほとんどの人が利用する」が32.3%となっていますが(*4)、制約がある人材への仕事配分や周囲の社員への負担増加を課題としてあげています。給与の支払い方は企業によって異なりますが、一般的には8時間勤務が6時間勤務になれば、給与は75%になる企業が多く(東京都労働局による)、長年時短勤務を続けるとキャリアアップできない(マミートラック)のではという不安を持つ従業員もいるといいます。

 一方で離職してしまった女性の場合を見てみると、女性の非労働力人口2,636万人のうち、就業を希望しながら求職していない女性は171万人です。彼女たちの70%は、フルタイムコミットしない非正規職を希望していていますが、その中で34.5%の女性が「適当な仕事がありそうにない」と回答しています。(図表6)

図表6 女性の就業希望者の内訳(*3)

無償労働が女性たちに偏っている

 日本の女性が仕事と育児の両立に難しさを感じ、労働市場から退いている状況をデータから見てきました。日本の女性は家庭内ケア責任の主担当だと言われていますが、これもデータを見てみたいと思います。

 日本の男性の労働時間は長い一方、家事・育児などの無償労働時間は女性に大きく偏っており、固定的役割分担が顕著に表れています。男女共同参画白書によると、日本の有償労働時間の男女比は1.7(1日あたり男性452分、女性272分)である一方、無償労働時間の男女比は5.5( 1日あたり男性41分、女性224分)であり、OECDの中でも一番大きな男女差が出ています。(図表7)

図表7 男女別に見た生活時間(週全体平均)
(1日あたり、国際比較)(*3)

  就業意欲のある女性たちがライフステージの変化を機に制約がある人材となり、従来の求められている労働条件が合わなくなり離職してしまう。その一方で、男性たちに有償労働の負担が偏り、仕事に長時間コミットせざるを得ないという悪循環に陥っています。女性や他の年代の男性と比べ、就業時間60時間以上となっている労働者は、子育て世代である30・40代の男性の割合が高くなっているのです。(*3) 

女性たちが活き活きと暮らす環境づくりを目指して

 データで見てきたように、日本の女性たちは様々な家庭環境や労働環境の課題に直面しながら、ライフステージに沿って必要な仕事やキャリアを選択しています。しかし現状では、家事や育児などの無償労働時間が女性に偏っていること、長時間労働を前提とした労働環境などの課題が彼女たちの前に立ちはだかり、育児や介護と仕事の狭間で悩み苦しんでいる女性たちが多くいます。

 女性たち一人ひとりが活き活きと働ける環境をつくるためには、どのような家庭環境でもスキルをもって働ける柔軟な労働環境が求められています。また、労働という観点だけでなく、女性を取り巻く家庭環境や地域社会・コミュニティ全体で共に考え、変化を起こしていく必要があり、そういった女性を取り巻く包括的な仕組みをつくり出すことが重要であると考えています。

 ワガママLabでは、女性たち一人ひとりを取り巻く環境を丁寧にまず紐とくことから始めています。一人ひとりが日々の暮らしの中で我慢していること、こうなったらいいなと思うことを自分自身で見つめ、言語化して周りと共有する。小さな一歩に見えるかもしれませんが、その視点こそが変化を起こす原点であり、周りや地域を動かすことにつながると信じています。実際にワガママLabを通して、自分自身のワガママに向き合い、それを原動力に地域全体を巻き込んで邁進していく女性たちを見ることができました。

 次回は、女性たちに対し柔軟な労働環境をつくための一つの施策としてテクノロジーの活用や事例、そしてIRODORIやワガママLabを通じて、どのように仕組みつくりを推進していくべきかについて考察していきます。

<参考資料>

  1. Global Gender Gap Report 2023
  2. The Economist’s glass-ceiling index
  3. 内閣府男女共同参画局「令和4年版 男女共同参画白書
  4. 厚生労働省「令和2年度 仕事と育児等の両⽴に関する実態把握のための調査研究事業
  5. 厚生労働省「平成28年度仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業

黒須仁美
株式会社IRODORI CSO(Chief Strategy Officer)
外資系コンサルタント勤務後、女性を取り巻く環境を変えたいと思い、女性の働き方、働く選択肢を増やし可能性を広げる事業に関わる。2023年より現職、戦略策定や新規事業の立ち上げに携わる。

wagamama Lab

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