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2026年6月18日

#Report

苦手だったアプリ開発が進路を変えた。MITでの経験から地域医療に向き合う高校生の探究学習

MITを経て、羽咋高校・疋島さんが歩み始めた地域実装への挑戦

この記事では、昨年7月にワガママLabのプログラムに参加した石川県立羽咋高校の疋島さんの事例を通じて、中高生の探究学習やアプリ開発が、進路選択や地域課題への関わり方にどのような変化を生むのかを紹介します。

ワガママLabでは、身近な人の「こうなったらいいな」というワガママを起点に、若者がアプリ開発や対話を通じて社会課題解決に挑戦するプログラムを展開しています。その実践は、Japan Wagamama Awardsなどの取り組みにもつながっています。

疋島さんが取り組んだのは、おばあちゃんの「スマホ1つで出かけたい」というワガママから始まったアプリ開発。MITでの経験は、ひとりの高校生の進路だけでなく、地域との向き合い方も変えていきます。苦手だったテクノロジーへの挑戦が、医療を支える工学への関心をひらき、クリニックや消防署、市役所との対話へとつながっていきました。

この記事でわかること

  • ワガママLabプログラムに参加した高校生が、MITでの経験を通じて進路を変えた理由
  • 祖母の「スマホ1つで出かけたい」という願いから生まれたアプリ開発の内容
  • 中高生の探究学習が、地域医療や救急現場の課題とつながるプロセス
  • 学校・自治体・地域が、若者の挑戦をどのように支えられるか
  • ワガママLabが大切にしている「たったひとりのワガママが、社会を動かす」考え方

探究学習でのアプリ開発が、医療系から工学・テクノロジー領域への関心をひらいた

【谷津】:今回は、羽咋高校3年生の疋島さんをゲストにお迎えします。疋島さんは昨年7月、MIT AI  Education Summitに参加したメンバーです。能登地域の特別プログラムに参加し、羽咋高校での取り組みを経てMITに行かれました。
MITに行ってから10ヶ月が経ちました。改めて振り返ってみて、今その経験が生きていると感じることはありますか?

【疋島】:大きく変わったのは、進路が全く違う方向に進んだことです。それが1番大きな変化だと思っています。MITに行く前は、医療系の職業に就きたいと思っていました。
でも、現地に行ってみたら、情報や機械の分野が面白いことに気づきました。資格を取って病院で働くだけではなく、会社に勤めて医療を支えるという方向性もあるんだと知って、進路が大きく変わりました

【谷津】:それは大きな変化ですね。何に触れて、何を見て、その考え方が変わったのでしょうか?

【疋島】:以前は、情報やコンピューターが全く好きではありませんでした。むしろ苦手で、絶対にやりたくないと思っていました。
でも、アプリを作っていると、自分の想像が形になっていく感覚がすごく楽しかったんです。現地でいろいろな方と話していると、皆さんが1つのアプリに対してすごく熱を持っていました。それを見て、自分も大人になってから、こういうことをしたいと思うようになりました。

【谷津】:なるほど。アプリ開発を通じて、単に「技術を学ぶ」というよりも、自分のアイデアが形になり、それが誰かの役に立つ可能性を感じたんですね。

【疋島】:はい。自分の苦手だったことに挑戦してみたら、意外と楽しかったという経験でした。

「スマホ1つで出かけたい」という祖母のワガママから生まれた社会課題解決アプリ

【谷津】:では、ラジオを聴いている方に向けて、疋島さんがどんなアプリを作り、MITで発表し、帰国後にどんなことに取り組んでいるのかを教えてください。

【疋島】:私のアプリは、おばあちゃんの「スマホ1つを持って出かけたい」というワガママから始まったものです。出かけている時に、身分証明書などの個人情報を持たずに外出してしまうことがあります。その状態で事故に遭ったり、病気で急に倒れてしまったりすると、家族とすぐに連絡が取れないかもしれません。

救急隊に必要な情報がすぐ伝わらず、処置が遅れてしまうのではないかと思いました。
そこで、自分の個人情報や医療情報をスマホに登録しておき、救急隊に見せれば必要な情報がすぐ伝わるアプリを作りました。

【谷津】:おばあちゃんのために作ったアプリが、医療や救急の現場にもつながる可能性を持っているわけですね。MITで発表して、帰国してからは、どのように進化しているのでしょうか?

【疋島】:現地でアドバイスをいただいてから、羽咋市で本当に使ってもらいたいという気持ちが強くなりました。でも、どうすればいいかわからなかったので、まずは地域のクリニックにメールをして、インタビューをさせていただきました。

自分のアプリに需要があるのか、医療関係者ではない自分には、どんな情報が必要なのかもわかりませんでした。そこで、実際にクリニックの方にお話を伺いました。

【谷津】:実際にクリニックの方からは、どのようなお話がありましたか?

【疋島】:羽咋市は人口が少ないまちですが、高齢者が多いです。地域のクリニックでは、患者さんが病院に来るだけではなく、お医者さんが高齢者の家を訪問して診療することもあります。
その時に、急に来てほしいと言われた場合、かかりつけ医ではないと医療情報の共有に時間がかかってしまい、仕事の効率が下がると初めて知りました。

そういう場面でも、このアプリが使えるのではないかとアドバイスをいただいて、その方向でも活用できるのかと驚きました。

【谷津】:かかりつけ医ではない場合は、病歴や服薬情報などを含めて、総合的に判断しなければいけませんよね。
「たったひとりのワガママが社会を動かす」というテーマがありますが、おばあちゃんのために作ったものが、地域医療の現場にも役立つ可能性があると体感したわけですね。

【疋島】:はい。自分でも驚きました。

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Japan Wagamama Awardsでは、中高生が身近な願いや困りごとを起点に、
アプリ開発を通じて社会課題解決に挑戦できます。

クリニック、消防署、市役所へ。地域実装に向けて見えてきた可能性と壁

【谷津】:クリニック以外にも、連携している人たちはいますか?

【疋島】:消防署にもインタビューをさせていただきました。最初は、消防署の救急隊の方に使ってもらいたいと思っていたので、医療情報の項目がこれで十分なのか、実際の現場で使えるのかをインタビューさせていただきました。

【谷津】:消防署の方からは、どのような反応がありましたか?

【疋島】:自分のアプリをスマホで見せたところ、実際の現場でも使えると言っていただきました。昨年から「マイナ救急」という制度が始まったらしいのですが、ログインが必要だったり、情報が多すぎてどれを使えばいいかわからなかったりするという話も聞きました。

自分のアプリを見せた時に、必要な情報が一目で見られるところが良いという意見をいただいて、すごく嬉しかったです。

【谷津】:「見やすい」という反応があったんですね。

【疋島】:はい。「結構見やすい」と言っていただきました。自分が大事にしていたポイントも、見やすくすることだったので嬉しかったです。

【谷津】:市役所にも相談に行かれたそうですね。どのような話をされたのでしょうか?

【疋島】:市役所の地域振興に関わる課に行き、どうにか使えないかと相談しました今はインターネットが普及していますが、まだ紙媒体が多いことが課題になっていると聞きました。いつか改善しなければいけないところなので、このアプリは良いと言っていただきました。
ただ、課題が大きすぎることと、アプリ開発にはお金がかかることもあり、実現はなかなか難しく、今はそこで詰まっています。

【谷津】:なるほど。大きな制度や仕組みに一気につなげるのは簡単ではありませんが、小さく実験してみることはできるかもしれませんね。去年の4月頃に説明会があり、5月頃に構想をつくり、5月・6月にアプリをつくり、7月に発表。その後、地域の方々に話を聞きながら、実装に向けて進めてきたわけですね。

この経験について、今は「良い経験ができた」と感じているのか、それとも「もっと地域の課題解決につなげていきたい」と感じているのか、どんな気持ちで向き合っていますか?

【疋島】:今は、この活動を通して地域の温かさを感じています。みんな快く「いいよ」と言ってくれます。でも、私のアプリを使ってもらうには、クリニックの先生や市役所の方など、誰かの協力が絶対に必要です。

「インタビューをさせてください」とお願いすると、快く時間をつくってくれて、毎回長い時間話を聞いてくださいます。そこに地域の温かさを感じます。小さなまちである羽咋だからこそできるのかなと思っています。自分もそういう立場になりたいと思い、地域にもっと貢献したいという気持ちが大きくなりました。

地域を「好きになった」のではなく、関わる理由が生まれた

【谷津】:この1年を過ごす前までは、地域に対する気持ちはどうでしたか?

【疋島】:羽咋市は好きでしたが、将来戻ってくることはなさそうだと思っていました。戻ってくることがあっても、羽咋市のために何かしたいという気持ちは、そこまでありませんでした。

どちらかというと、都会に出たいと思っていました。でも、こういう小さな地域に貢献できることも、すごく良いことだと思うようになりました。

【谷津】:今のお話を聞いていると、大人の立場からすると、地域を一生懸命良くしていきたいと考えている若い世代のことは応援したい。でも、応援の仕方がわからないのだろうなとも感じます。

一方で、疋島さんのような高校生や中学生の世代からすると、「地域を好きになってほしい」と言われても、好きになる理由がないと感じることもあると思います。表面的な活動だけでは、本当に「いいな」と思う瞬間は訪れにくいのかもしれません。

でも、今のように、たったひとりの課題を解決するアプリをつくり、それを地域で使ってもらいたいというスイッチが入ったからこそ、いろいろな人たちが関わり、協力してくれるようになったのではないかと思います。
アプリをつくってみて本当に良かったと感じるのは、そういうところにもありますか?

【疋島】:そうですね。もっと羽咋市を知ることができました。17年住んでいても、全然知らなかった問題がたくさんありました。もっと羽咋を知ることができたし、もっと羽咋を好きになれたと思います。

【谷津】:地域への愛着は、最初から自然に湧いてくるものではなく、自分の行動を通じて地域の人と出会い、課題を知り、関わる理由が生まれることで深まっていくのかもしれませんね。

MITとのつながりが、後輩の挑戦と地域での継続につながっていく

【谷津】:MITのデイビッドさんともやり取りをして、技術的なことを聞けたりしていますよね。デイビッドさんは今年も羽咋に行きたいと言っていて、羽咋に行ったら疋島さんに会いに行きたいとも話しています。

3月に羽咋高校で開催されたシンポジウムには、ナタリーさんとケリーさんにも来てもらいました。その時にもアプリの話をして、ナタリーさんの旦那さんのニコラスさんがお医者さんなので、つなぐよと言ってくれていましたよね。疋島さんがつくったものによって、いろいろなつながりが生まれている感覚はありますか?

【疋島】:そうですね。ナタリーさんもそうですが、アプリを褒めていただけると、すごくモチベーションになります。絶対に使ってもらいたいという気持ちが、どんどん強くなります。アプリの面だけではなく、勉強面でも「ああいう大人になりたい」と思うと、すごくモチベーションになります。とても良い経験でした。

【谷津】:実際にこれを実現していくとなると、1人の力だけでは難しいところも出てくると思います。僕たちも、企業の力を借りるなど、実現に向けてできることがあるのではないかと思っています。

受験生ということもあり、勉強する時間も確保しなければならないので、これだけにかかりきりになるのは難しいかもしれません。それでも、ぜひ頑張っていきたいですね。

ちなみに、今年のJapan Wagamama Awards 2026で、疋島さんの後輩4人がグランプリを取りました。後輩たちが今年のサミットに行くことについて、どう思いますか?

【疋島】:正直に言うと、すごく羨ましいです。私もまた行きたいです。1回実際に今年渡米する後輩に話したんですが、とにかく英語だけは勉強した方がいいと言いました。自分が行って、もっと英語を勉強しておけばよかったと後悔したので。

【谷津】:去年、羽咋高校の総合的な探究の時間で先生たちがJapan Wagamama Awards に出る人を募った時、疋島さんと疋田さんがMITに行ったことは、後輩たちにとってかなり大きかったようです。さらに、疋島さんが継続して活動していることで、MIT側の打ち合わせでも「羽咋高校」「羽咋」という言葉が頻繁に出てきます。疋島さんが行って、帰ってきて何もしなかったら、そうはならなかったはずです。

継続は、人とのつながりを作り続けることなのだと、僕たちも見ていて感じています。

苦手だったことへの挑戦が、進路を変えるきっかけになる

【谷津】:今後の進路について、言える範囲で教えてください。学部や専門は、コンピューターサイエンスのような方向を目指しているのでしょうか?

【疋島】:工学系を目指しています。私は医療関係の仕事に就きたいので、今は検査機械やロボットに興味があります。そちらの方向に進もうと思っています。

【谷津】:医療の現場に関わりたいという思いはありながら、病院で働く以外の形として、検査機械やロボットなど、テクノロジーを通じて医療を支える方向に関心が広がったんですね。病院で働こうと思っていた人が、最先端の技術に興味を持つようになったというのは、とても印象的です。

最後に、今後Japan Wagamama Awards などに挑戦する子たちに向けて、疋島さんから伝えたいことはありますか?

【疋島】:自分も実際にアプリをつくって、大きく進路を変えた身です。

アメリカに行くことも1つのゴールだと思いますが、アプリをつくるという経験自体も、自分の中ですごく生きていると思っています。
みんなにも、アプリや自分の苦手なことに挑戦してもらえたら、意外と進路が大きく変わったりするのかなと思います。ぜひやってみてほしいです。

まとめ:中高生のアプリ開発は、進路と地域への関わり方を変える探究学習になる

今回の疋島さんのお話から見えてきたのは、アプリ開発が単なる技術体験ではなく、進路や地域との関わり方を変えるきっかけになり得るということでした。おばあちゃんの「スマホ1つで出かけたい」という小さなワガママから始まったアプリは、クリニック、消防署、市役所との対話を通じて、地域医療や救急現場の課題へとつながっていきました。

地域で実装していくには、資金や制度、協力体制などの壁もあります。
それでも、疋島さんが地域の人に話を聞き、協力を得ながら進めてきたプロセスには、若者の挑戦を地域がどう支えられるのかというヒントがあります。

自分や身近な人のワガママを起点に行動し、地域の人と出会い、知らなかった課題に触れる。その経験の先に、地域への愛着が生まれていくのだと思います。

苦手だったアプリ開発への挑戦が、進路を変え、地域への見方を変え、後輩たちの一歩にもつながっていく。疋島さんの歩みは、「たったひとりのワガママが、社会を動かす。」という考え方を体現しているように感じます。

これからもワガママLabでは、引き続き地域での挑戦をサポートしていきます!

■Japan Wagamama Awards
たったひとりのワガママをアプリにできる体験会
https://awards.wagamamalab.jp/

■ 若者の「ワガママ」を、地域や社会とつなぐ伴走者を募集しています。
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■ワガママラジオ本編はこちら
https://open.spotify.com/episode/4557dUVoXs2Fu5oAyB6qK6?si=nuRVh6-VQYKpoUBqEw3jAQ

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